「今、どんな気持ち?」と聞かれて、何も言葉が浮かばずに困ったことはありませんか?
「うーん、わかんない」「別に何も…」と答えたあとで、なんだかモヤモヤしたり、気まずい思いをしたことのある人は少なくないと思います。
まるで、自分の感情をどこかに置いてきてしまったかのように感じることもあるかもしれません。
この記事では、心理カウンセラーの視点から「なぜ感情がわからなくなるのか」「どうすれば自分の気持ちに気づけるようになるのか」を、丁寧にわかりやすく解説します。
感情に戸惑いを感じているあなたが、自分と優しく向き合えるようなヒントを詰め込みました。
感情が言葉にならないのは「弱さ」ではない
まず初めに、感情を言葉にできないということは、決して「感受性が鈍い」わけでも「自分に向き合えていない」わけでもありません。
むしろ、感情を抑えて生きてきた人や、他人を優先して生きてきた人ほど、自分の内側に目を向けることが難しくなるのは自然なことです。
たとえば「泣いてはいけない」「怒っちゃだめ」「そんなこと思っちゃいけない」と教えられて育った人は、感情が出てきてもすぐに打ち消すクセが身についているもの。
そのため、「本当は何を感じていたのか」が、自分でもわからなくなってしまうのです。
なぜ気持ちにピンとこなくなるのか
感情が自分でわからなくなる背景には、いくつかの要因が考えられます。
一つは「頭で考えることが得意すぎる」タイプ。理屈や分析は得意だけど、感情の扱いには不慣れ。
もう一つは「常に誰かに合わせてきた」タイプ。自分よりも周囲の気持ちを優先しすぎて、自分の感情がどこにあるのかわからなくなってしまったケースです。
また、「感情を感じたことで傷ついた経験」があると、人は無意識にその感情にフタをするようになります。
たとえば、「本当は悲しかったのに、泣いたら怒られた」という経験があると、悲しみを感じないように心が防御反応を起こします。
こうした経験の積み重ねが、自分の気持ちと距離を取るクセを作ってしまうのです。
感情には「名前をつける練習」が必要
感情というのは、本来とても曖昧なものです。
「悲しい」「怒ってる」「寂しい」など、表現するには“ラベル”が必要ですが、そのラベルを貼る経験をしてこなかった人は、「何を感じているのか」を言葉にすることに苦労します。
たとえば、怒っているように見える人が実は「悲しみ」を感じていたり、笑っている人が心の奥で「孤独」を抱えていることもあります。
こうした“複雑な感情”に気づくには、「今の気持ちに一番近いのは何だろう?」と、ゆっくり探っていくことが大切です。
一発で正解を当てる必要はありません。
「ちょっとムカついた」「なんかイラっとした」など、曖昧な言葉でもいいので、自分なりの表現でOK。
感情に名前をつけること自体が、心と向き合う第一歩になります。
「感じてはいけない感情」なんてない
感情に苦手意識がある人ほど、「この感情は良くない」「怒ってはいけない」「寂しいと思うなんて弱い」と、自分に制限をかけがちです。
でも、感情に“正しい・間違い”はありません。
誰かの言動にイラっとするのも、寂しさで涙が出るのも、それはあなたの心がちゃんと「反応している証拠」。
たとえば、「怒り」は自分を守るためのサインであり、「悲しみ」は大切な何かを失ったときに生まれる自然な反応。
感情はすべて、あなたの味方です。だからまずは、「何を感じてもいい」と、自分に許可を出すことから始めてみましょう。
言葉にならない感情と向き合うための具体的な方法
ここからは、実際に自分の気持ちを少しずつ理解していくためのヒントをいくつか紹介します。
体の反応を観察する
「心がわからないときは体に聞く」のがポイントです。
たとえば、会話中に急にお腹が痛くなった、胸が苦しくなった、急に眠くなった…など、体の反応は感情より正直です。
体に起きた変化を書き留めて、「そのとき何が起きたか」「誰といたか」「どんな会話をしていたか」を振り返ってみましょう。
1日3つ「気持ち日記」を書く
毎晩寝る前に、「今日感じたことを3つ」だけ書き出してみてください。
最初は「眠い」「なんとなくモヤモヤする」でも大丈夫。言葉が見つからないなら、「うまく言えないけど、もやっとした」でOKです。
感情を吐き出す場所を作ることが、少しずつ自分の心とつながるきっかけになります。
「過去の似た体験」を手がかりにする
今の感情がわからないときは、「過去に似た出来事でどう感じたか」を思い出してみましょう。
「あのときも同じような状況だったな」「あのときも我慢してたかも」と気づくことで、今の感情にもヒントが得られます。
安心できる相手との会話で練習する
信頼できる人に「今の気持ち、うまく言えないけど聞いてくれる?」と前置きした上で、自分の気持ちを少しずつ話してみましょう。
相手の反応が優しければ、「こんな風に話していいんだ」と思えるようになり、安心感が少しずつ心をほどいてくれます。
感情とつながることは「自分を生きること」
自分の感情を感じるというのは、すなわち「自分の人生を自分のものとして生きる」ことにつながっています。
何を感じ、何を選び、どう生きるか。そのすべてのスタート地点は「今、自分が何を感じているか」にあります。
もしあなたが、今までは人の気持ちにばかり敏感で、自分の心には鈍感だったとしたら、これからは少しだけ自分にアンテナを向けてみてください。
感情を感じることが難しいのは、あなたが自分を大切にしてこなかったからではなく、大切に「しすぎていた」からかもしれません。
自分を守るために心が閉じた結果、「わからない」という形で現れていただけなのです。
おわりに
「気持ちを聞かれても答えに詰まる」。それは、今のあなたにとって自然な反応です。
焦らなくて大丈夫。ゆっくりと、自分のペースで、自分の感情と仲直りしていきましょう。
うまく言葉にならない気持ちも、どこかに確かに存在しています。
その感情たちに、少しずつ目を向け、受け止めていけたとき、あなたはきっと“本当の自分”と出会えるはずです。